2307No.86

KAMAちゃんの「廃棄物ひとくちコラム」

 

リニア新幹線トンネル工事に伴う環境保全対策について

 

  1年前のメルマガ第73号(2022.06)のコラムで、大井川流量減少対策として田代ダム案が登場したことをお伝えしました。今回は、廃棄物処理の観点からは離れますが、JRリニア新幹線トンネル工事に関連する環境保全の観点から最近の報道を見てみたいと思います。

 

 まず大井川本流の流量減少対策について、JR東海は東京電力との協議を開始した旨の報道がされています。大井川源流部に設けられた田代ダムからは、毎秒5㎥の河川水が、導水管により、富士川支流の雨畑川に分流されています。この水は、東京電力が水利権を有しており、導水管の先で水力発電に利用されていて、2つの発電所が設けられ、合計発電能力は4万キロワットに達しています。これら施設の歴史は古く、1923年(大正3年)には既に完成していたと記録されています。しかし、源流部において、毎秒5㎥という水量は膨大で、ダム下流では川枯れ状態が生じて大きな問題となりました。これが流域住民の「水返せ運動」に繋がり、県や流域市町村と東京電力の話し合いの結果、川枯れを起こさない最低水量が確保されることになりましたが、その量は、毎秒0.43〜1.49㎥に留まっており、定常時(出水時を除く)の流量の多くは導水路により富士川へ分流されています。

こうした中で、昨年の5月にトンネル工事に伴う大井川流量減少対策として登場したのが、田代ダムでの分流水量を減少させて、大井川本流に戻すという提案です。私は、リニア問題が表面化した4年前の時点から、その解決策はこれしかないと思っていましたので、「やっと出てきたか」という思いがしたものでした。

しかし、県と流域市町の考えが一致しなかったり、JRと有識者会議の議論が嚙み合わなかったりで、この1年間は問題解決に向けた具体的な進展が見られませんでした。ここにきてやっと、JR東海が東京電力と具体的な協議に入ったとの報道がされています。

部外者である私から見れば、この協議について大きな問題はなく、東京電力の発電量が減少する分をJR東海が補償金として支払うことで解決できると考えます。しかし、東京電力にしてみれば、タダ同然で得た水利権に対して、補償金を得ることに社会的な後ろめたさがあるのでしょうか。また、トンネル工事終了後の水利権更新に影響するのではないかという危惧を持っているのではと推測しますが、切羽詰まった現状では、そうしたことは排除して、1日も早い合意を目指すべきです。時間は取り戻せませんが、今日までこうした協議自体が行われてこなかったことが不可解でなりません。

 

一方で、この問題が解決したからといってトンネル工事着工となるかというと、残念ながら「ノー」と言わざるを得ません。それは、トンネル掘削工事で発生する残土処理の問題が残っているからです。盛土条例に基づく許可取得の手続きに見通しが立っていないのです。工事からは、370万㎥の掘削残土が発生し、その大部分である360万㎥を現場近くの沢沿いの場所に積み上げる計画で、積み上げ高は最大65mに達するとされています。大井川源流部に近い平坦地が少ない場所におけるこの計画は、土木分野では全くの素人である私でも、本当に大丈夫?という疑問が沸きます。また、この地域の掘削土には自然由来の重金属が含まれていると予測されていることから、土木的安定性に加えて環境保全の観点からも、対策工法に関する議論も必要となります。

 

トンネル工事の着工遅延は、リニア開業時期にも大きく影響を与え、全国から「静岡県がごねている」からだと見られています。水問題に加え、残土処理問題が表面化してくれば、益々建設反対のための遅延行為と見られてしまいそうです。

リニア計画は、ある意味国策事業であり、まさに「夢の超特急」の実現ということになりますが、一方で、それにより環境破壊はやむを得ないという時代でもありません。計画実現に向けた、論点(問題点)整理を行う中で、1点ずつの議論ではなく、同時並行的に問題解決に向けた議論を進めていただくことを強く希望します。静岡県も「リニア新幹線建設期成同盟会」のメンバーに加わったのですから。